破 恋

やはり·····

遅すぎたのか·····


マレーシアに来てから
社宅に一人で暮らしながら
毎日を過ごしていた。

仕事以外は、何をしても
空虚で····虚しかった。

『おはよう、千里』
『おかえりなさい。
ご飯できてるよ。美味しい?』
『ちゃんと、お風呂入ってね?』
『髪かわかした?』
『千里·····せんりっ····』
優しくて、大好きな君は···いない···

どうして·····手放したの····だろう····

莉子との記憶もなくて
ただ、« 莉子 »と言う、
人物を知ってる····だけ···

莉子との思い出も
俺の頭には····何一つ···として····ない···

それを思い出す事もできない
思い出もなにもない
俺に対して
これ以上彼女に負担に
負わせたくなかった。

記憶のない辛さを
味会わせたくなかった。

だから、俺自身が
そばにいて欲しいと強制することは
間違っていると思った。

ここに来るときに
母だと名乗る人に
本を持たされた。
「貴方が、人恋しくなった時に
    これを開けて見なさい。」と。
そのときは、あまり考えてなくて
ポンと、どこかに·····

あちこちを探す。
まだ、封を開けてない箱もある中に
それを見つけた。
クアラ・ルンプルに来て
一年半が過ぎていた。

箱を開けると
西原 千里 様と書いた手紙が
入っていた。
達筆だ。
母だろうと思い開く·····

手紙には·····
あの頃の経緯を細かく書いてあり
俺に沢山詫びていた。

俺が、最後に
生前父親に自分が亡くなった時
母さんを頼むと言われていたけど
無理だわ、ごめん、父さん。
と、言った言葉に
自分が取り返しのつかない事を
したのだと、はっきりわかった。

泉さんにも、大切な我が子にも
酷い事をした
と、毎日後悔をしていると。

だけど、許して欲しいとは
思っていない。
それだけの事をしたから
でも、泉さんの事を思うと忍びなくて
こんなものを作りました。
貴方が見たいと思った時に見てね
と、書いてあった。

開くと·····
赤ちゃんの····俺?
男性が嬉しそうに頬摺りをしている
父か?····
母さんが、ご飯を食べさせている

両親と一緒の
幼稚園の入園式
小学校の入学式・卒業式
中学校の入学式・卒業式
高校の入学式と卒業式
卒業式には、父の姿はなかった。

大学入学と卒業
このときには、母の姿もなく
友人達と写っていた、中に佑翔もいた。

会社入社式
もちろん莉子もいる
指で莉子を触る
と······

莉子にこれから少しして
告白したんだ。

莉子を狙ってる奴が沢山いた。

日本人形のようなきれいな顔
美しい髪
さらさらの髪を軽く巻いて
とめてる、その仕草が
たまらなかった。

数ある男性から
俺は、莉子を仕留めた。

綺麗なのに
そんなことを鼻にかけることもなく
誰にでも優しくて、丁寧で
真面目な莉子に
惚れないやつがいただろうか?
一緒にいる安藤も綺麗だが
莉子とは、違う綺麗さだった。

莉子は、俺の告白を
受けてくれた。
天にものぼる嬉しさだったなぁ
と、思っていると
次々に頭に記憶が流れ込んでくる。

飲み会の日も
桜田の部屋で目が覚めた事も
莉子に別れを言われて
泣いて、泣いて、悔やんだ事も
肺炎などで入院して莉子が
付いてくれた事も。
母さんの前で手首を切った事も

莉子にプロポーズをして
二人の未来を沢山、沢山
話した事も······

思い出した·····

だが、だからといって
莉子になんと言う?
思い出したから、
また、付き合って。
そんな虫の良い

それからは、
莉子を深く想いながら
仕事に邁進する。

時々、専務が···
野上課長が連絡してくる。

俺は、ばれないように
接した。
クアラ・ルンプルで大きな
土地の売買の噂が耳に入る
直ぐに情報を専務に流し
専務からの指示を待つ。

専務の調査
社長の決済で
売買の競合の中に入る
駆け引きが始まる
俺も、俺の知り得る伝を使い
情報を得る
佑翔も力を貸してくれた。
負ければ、損害は大きい
社長も専務も俺のやりたいように
させてくれた。

何とか勝ち得て
わが社の物となった。

今度は、それを売却する
他国からも買い付けがくる。
どこに出すか?
社長と専務の判断を仰ぎながら
動向を見決める。
< 67 / 76 >

この作品をシェア

pagetop