血の舞
「次は…。広場に行こうかな。」

広場では今、どこかの民族楽器を使った音楽が披露されていた。
周りでは人々が踊り、手拍子をおくる。

「わぁ~!楽しそう!」

私は足でリズムを刻み、手拍子をとる。
すると1人の演奏者が私の様子を見て、手を差し伸べてきた。

「君は踊らないのかい?」

正直なところ、人前で踊るのは恥ずかしかったし、退院後だったので、激しい運動は控えてと言われていた。
でも。

(う~!いいや、踊っちゃえ!)

それよりもこの楽しそうな雰囲気に混ざりたかった。
私は踊っている人達の輪の中へ入り、踊りだす。
聴いたことも無い曲だったのに、体は知っていると言わんばかりにリズムをとる。

(わー!楽しい!)

ずっと入院していたので踊ったことはなかったが、もうそんなことはどうでもいい。
今は、この時間がいつまでも続けば、と願ってしまうほどだった。

曲が終わり、客が拍手をおくる。
私も大きな拍手をした。
少し体はふらついていて、無茶をしてしまったようだった。

(ハハハ…!久しぶりだなぁ。こんなに楽しいことは!)

フラついたまま、家へと向かう。

と、その時だった。
ウーウーとサイレンが街に鳴り響く。

「なっ何?!」

ゴゴゴゴゴ…と空から音がして、上を見上げた。
飛行機が…いや、他の国の戦闘機が空を飛んでいた。

「?!」

他の人々はソレを見て逃げ惑っている。
そりゃあそうだ。
戦争には予告が必要なのだ。
それも無しに戦争を始められては困る。
いや、困るの問題ではないのだが。

戦闘機が、人々に向かって1弾目の爆弾を落としてくる。
鼓膜が破れそうな大きな音がして、炎が燃え上がる。

(…ここからっ!逃げないと…!)

私は走る。
逃げ場も無い、荒れ狂った戦場を。
ただひたすらに走るのだ。

(逃げないと、でもどこへ?逃げないと…でも、何処へ?!)

ただ頭の中をその言葉が永遠に駆け抜ける。
私の横を人が吹き飛んでいく。
助けて、助けてと悲願の声に思わず耳を塞いだ。

「ハァ…ッ…ハァ…ッ!」

走っても走っても。
逃げ道は無く。
私の体力はもう限界だった。
脚は筋肉が痙攣を起こし、心臓の鼓動がいつもより早くなる。
肺は炎症を起こし、喉は焼けているみたいだ。

でも、立ち止まることはできない。
立ち止まって、待っているのは『死』だけだ。

ギギギ…と嫌な音がして、走りながら後ろを振り向く。
大きな建物が、倒れてきていた。

(やばいっ!)

とっさに避けようとしたが、病気が治ったばかりの私ではそれも無理で。
結果。
私はその建物に飲まれていった。
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