それを恋だと知ったとき。
1学期
出会い
和泉麻里香はごく普通の高校一年生だ。
ただ、人より少し大人しくて、人より少し冴えない見た目をしていて、人より少し勉強が好きなだけ。
クラスメイトからは"地味子"なんて呼ばれているが、それでもごくごく普通の高校一年生だと言える。
しかし、そんな麻里香には秘密があった。
「ねえこれ知ってる?ネットでバズってるんだけどカラオケチャンプってゆーやつ」
ピクリ。
「あ、見た見ためっちゃリツイされてるやつでしょ」
「そー!もーめちゃめちゃ鳥肌立っちゃってさー、こんだけ歌えたら気持ちいいだろうなー!」
「エグいよねー!優勝した子……えーっと名前なんだっけ」
「Mari、だよ!」
その名前を聞いた途端ドクドクと波打つ心臓がうるさい。
静かに本を読み進めていた手も止まり代わりにじんわりと汗が滲んできた。
ただクラスメイトがネットに晒された動画の話をしているだけ、おちつけ。
(誰よ今更そんなことしたの……"Mari"が優勝したのはもう3年も前の大会なのに)
「三年前……で12歳ってことはMariってうちらと同い年じゃん!でも最近テレビ出てないよね?」
「確か引退したみたいよ。本業のミュージカルでなんかあったとかで」
「えー、そうなんだ。ちょっと残念だね」
「今何してるんだろうねー」
(あなた達の後ろで普通の女子高生してます。
……なんて口が裂けても言えない)
そう。
麻里香は『Mari』名義でミュージカルを中心に女優として活動していた。
そして今から三年前、カラオケの点数を競う"カラオケチャンプ"というTV番組で優勝し一躍有名人に。
これからの活躍を期待されていただけに、突如舞台から姿を消したとき衝撃はすさまじいものだった。
(私はもう……あの頃みたいに歌えない)