それを恋だと知ったとき。
 

 なんでこうなったんだろう。



「ほら、歌ってよ」

「嫌です」

「なんで。さっきまで歌ってたじゃん」

「さっきまではさっきまでです。人前じゃ歌いたくないんです」

「誰もいないじゃん。俺しか」

「うん、あなたが居ますね」

「ケチ」

「ケチで結構です」



 かれこれ10分はこんなやりとりをしていると思う。その場の空気に耐えられず帰ろうとした私を、扉の前に立ち塞がった鈴宮くんが阻止している状況。

 
 本当なんでこうなったんだろ。



「いい加減通して。私はもう人前じゃ歌えないの!」

「もう?」

「……あ」



 しめしめ、と言った様子でニヤリと笑った鈴宮くん。反対に私は、やってしまった、と思わず頭を抱えてしまった。




「アンタなんか隠してんだろ?」



 本当、私の馬鹿。

 かと言って馬鹿正直に本当の事を話すわけじゃない。どうせ歌は聴かれてしまったのだから、変に噂されても困る。
 


 少しだけ私の秘密を打ち明けよう。



「……昔、少しだけ人前で歌う仕事をしてたんです。ただそれだけ。誰にも言わないで」


 反応が怖くて顔を上げられない。


「ふーん……そゆことね」


 お願いだからそれ以上詮索しないで。


「分かった、誰にも言わない」



 その言葉にホッと胸を撫で下ろしゆっくりと顔を上げた。しかしそこにあった鈴宮くんの顔は悪巧みをした子供のような……とにかくあまり喜ばしくない顔をしていて。

 あ、これ、やばいやつだ。



「俺のために歌ってくれるならな」


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