春が来る前に、
か ん じ る
「ふられた瞬間、泣いたほうがよかったと思う?」
笠野くんが泣き腫らした目で、わたしに問うた。
「──……わたしだったら、笑顔でいたひとのほうがずっとずっと心に残るかな」
「そっか」
鼻を啜って、前を向く。
その手に握られた、どこかの陽気な広告入りのポケットティッシュ。
わたしがなんだかんだと悩んでうじうじしている暇、ないよね。
「これあげるよ」
「え、これ?」
リュックの中から、トイレットペーパーを取り出して渡す。
「わたし、鼻炎もちなの。これなら長い期間もつから、持ち運んでる」
「……そっか、大変なんだね、瀬山さん」
いや、そっちのほうがよっぽど。
思いながら、飲み込んだ。
「まあそれなりにね」
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