春が来る前に、
「内緒で付き合っていたんだって。相手の男の子、すごくかっこいいひとで。諦めないって宣言も、しようなんて気になれなかった。なんて思われるか怖いし、彼、すごいし」
早口。時折足元にくだる涙。
早口。わたしの心をノックする。
「……うん」
「もともと、付き合えるなんて思っていなかったんだ。だけど、それでも、抑えられなくて」
彼の気持ちが、痛いほどにわかる。
「──瞬間、いびつな笑顔で そっか、ごめんね って言ったんだ」
どの瞬間か、わかる。
「……こんなこと、ごめんね」
そんなに謝らないでよ。言えなかった。
わたしだけに投げかけている言葉、に、揺らいだ心。最低だ。
“ わ た し 、 笠 野 く ん が す き ”
言わなかった。言えなかった。