好きと掟の間に
電車に乗り、席に着くと、
和広君は不意に手を離した。
沈黙が続く。
ちょっと寂しいなあって感じていると
和広君の口が開いた。
「…ミナちゃんは、
俺の父さんの話は
しようとしないんだな?」
「え…?」
「みんなさ、
俺は脚が速くて当たり前だと思ってやがんだ…
俺の父さんが
昔トップアスリートだったんなら
遺伝だろって…
知ってんだろ?俺の父さん。」
少し怖かった。
「知ってたよ、高校に入ってからね。
でも和広君自身は
中学生の頃から知ってたし…
憧れてた。」
「…中学の俺、
今程強くなかったじゃん。」
「この地区じゃ
いつも入賞してたじゃない。
あたしはいつも
速いなあって思いながら見てたよ?」
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