君は愛しのバニーちゃん


 俺はポケットに忍ばせていたキーホルダーを取り出すと、それを美兎ちゃんに向けて差し出した。実は、美兎ちゃんがトイレに行っている間に、こっそりと内緒で買っておいたうさぎのキーホルダー。
 まぁ……美兎ちゃんにあまりにも似ていたからつい買ってしまった、なんてことはさておき。初デートの締め括りに、サプライズは欠かせない。いくら頭の中がピンク一色だったとはいえ、そのへんはキッチリと抜かりはない。


「はい、これ。……今日の(初デート)記念に、美兎ちゃんにあげる」

「……あっ。それ……!」


 なにやら、鞄の中身をゴソゴソと漁り始めた美兎ちゃん。その姿を黙って見守っていると、なんとそこから取り出したのは、俺の差し出したうさぎと色違いのキーホルダー。


「……実はね、ミトも買ったの。瑛斗先生にあげようと思って」

「えっ? ……俺、に?」

「うんっ。今日のお礼に。瑛斗先生、うさぎちゃんが好きみたいだったから……。色違いになっちゃったね」


 ほんのりと赤く染まった頬で、恥ずかしそうにクスリと微笑んだ美兎ちゃん。

 まさか、お互いの為に選んだ商品が全く同じ物だったとは……。これはもはや、偶然なんて言葉では形容しがたい。
 そう——これはまさに、運命っ! こんなにも、俺達の想いは通じ合っているのだ。
 

「じゃあ……。交換こ、だね?」


 はにかむような笑顔を見せた美兎ちゃんは、俺の掌からキーホルダーを取り上げると、代わりに自分が持っていたキーホルダーをそっと置いた。その行為はまさしく、俺がここ最近ずっと夢見続けていた”アレ”と全く同じ行為で……。
 ついに夢が叶ったのだと、感動に心が震える。


(あぁ……。どこからともなく、祝福の鐘の音が聴こえてくる——)


 これはまさに、そう——!


 新郎新婦の、指輪交換だ♡♡♡♡


(……俺達っ! 結♡ 婚♡ しました……っ♡♡♡♡)
 

 俺の脳内で、何度も響き渡る祝福の鐘の音。その鐘の音を聴きながら、それはそれはだらしなく鼻の下を伸ばした俺は——。とても幸せそうな笑顔で美兎ちゃんを見つめると、キラリと一雫、歓喜の涙を流した。


(……っ神様、ありがとう!!!! 一生、大切にしますっ♡♡♡♡)


 可愛らしく微笑むマイ・ワイフ♡ を前に——俺はそう、神に誓ったのだった。





 ——その後。すっかりと幸せ気分に浸ってしまった俺は、どうやって自宅の最寄り駅まで辿り着いたのか……。その辺の記憶はさっぱりと抜け落ちていたが、そんなこと今はどうだっていい。
 買い込んだばかりの結婚情報誌片手に、ルンタッタ・ルンタッタと夕暮れに染まる歩道をスキップする。感動の涙を大量に流しながらスキップするその姿は、それはとても異様だったようで……行き交う人々は不審そうな目を向ける。
 だが、幸せ気分全開の俺には、そんなことちっとも気にはならない。

 そんなことより、挙式はどこにしようか、ハネムーンはどこにしようかなど……考えなくてはならないことが沢山あって、とても忙しいのだ。
 
 
(もちろん……。初夜のことも……っ♡ むふっ♡ ……むふふふふっ♡♡♡♡)


 もはや、笑い声が止まらない。
 不気味な笑い声を響かせながら、涙を流して軽快にルンタッタ・ルンタッタとスキップをする。その姿があまりに異様すぎて、翌日から【不審者、注意!】の看板が立てられたことは……俺の知る由もないこと。

 ——その日の夜。美兎ちゃんの年齢がまだ14歳だったと、衝撃の事実に気付いた俺。
 そんな俺が、キーホルダーを抱きしめながら一晩中泣き続けたこともまた、誰も知る由のないことなのだった。


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