君は愛しのバニーちゃん
「『山田さん』。はい、お水だよ〜」
トポトポとミネラルウォーターを注ぎながら、山田の目前にシリコン製の器を差し出した美兎ちゃん。それを、美味しそうにペロペロと飲み始める『山田さん』。
こうも甲斐甲斐しく美兎ちゃんからお世話してもらえるとは……相変わらず、犬の分際で生意気だ。
(俺だって……っ! うさぎちゃんに、お世話されたいのにっ!!)
そんな不毛な嫉妬を抱きつつ、愛おしそうに『山田さん』をナデナデする美兎ちゃんの姿を眺める。
(……グハッ! ……てっ、天使だ……っ!!!)
その驚異的な可愛さに思わず片手で顔面を覆うと、フラリと後ろへよろけてはグッと堪える。
俺はいつか——この可愛さの暴力に耐えきれずに、死んでしまうのでは……? そんな一抹の不安を、日々、薄っすらと感じている。
ズキズキと痛む股間を太腿を窄めて抑えると、ハァハァと呼吸を荒げて身悶える。
(これが……っ。噂に聞く、”腹上死”ってヤツかっ!!?)
指の隙間からチラリと美兎ちゃんを見ては、鼻の下を伸ばしてだらしなく微笑む。その姿は、完全に『ロリコン変態野郎』そのものだ。
そろそろ、”自首しろ”なんて声がどこかから聞こえてきてもおかしくはない。
「今日は、あっついね〜。『山田さん』。お水で遊ぼっか!」
山田のリードを引くと、サンダルのまま川へと入水した美兎ちゃん。足首程の高さしかない水位で、楽しそうに山田とパシャパシャと遊ぶその姿は——。
(まさに、天使の水浴びだ……っ♡)
潰れた顔の不細工な仔犬が……絵面的に、ちょっと邪魔だ。そんなことを思いながら、蕩けた笑顔で美兎ちゃんの姿を眺める。
すると、バシャバシャと嬉しそうに駆け回る山田が、俺の目の前まで来ると突然バシャリと飛び跳ねた。グッショリと水浸しになる、俺のチノパン。
(……クソッ! 山田めっ!!)
「……よくもやったな〜! この野郎〜!」
笑顔を取り繕って川へと入ると、闘争心剥き出しでバシャバシャと山田へ水攻めを開始する。
(俺を敵に回すとは……っ、ブァカなヤツめっ!! グハハハハッ!!!)
悪魔のような笑い声を頭の中で響かせると、チョロチョロと動き回る山田を必死に追いかける。
なんだか、山田が嬉しそうに見えるのは……。きっと、俺の気のせいだろう。そう思っておくことにする。
「ミト&『山田さん』チームと、瑛斗先生の勝負ぅ〜!」
楽しそうな笑い声を響かせながら、パシャパシャと俺に水をかけ始めた美兎ちゃん。
(……えっ!!? 俺、美兎ちゃんの敵なの!!!?)
いつの間にやら開始されていた勝負に、その組み合わせを聞いて軽くショックを受ける。
(ゥグッ……。クソォォオー!! お前なんて、嫌いだーっっ!!!!)
俺の目尻から流れ出た悔し涙は、山田が走り回って飛び散った水と混ざり合い、空へ舞って儚く消えていった。それはそれは、綺麗に光り輝いて——。
グッと口元に力を込めると、気持ちを新たにせめて一矢報いようと、夢中になって山田を追いかける。
(ところで……。勝敗って、どこで決まるんだ……?)
頭の片隅でそんなことを考えながらも……。楽しそうにはしゃいでいる美兎ちゃんの姿を見ていると、勝敗などどうでもよくなってくる。いつしか、この戯れを純粋に楽しむようになっていた俺は、鼻の下を目一杯伸ばすと歓喜に心を震わせた。
だって、これはまさしく……。テレビなんかでよく見る、海辺で楽しそうに水を掛け合う——!
(カップルみたいじゃないか……っ♡)
一人、妄想にふけっていると、容赦なく美兎ちゃんからバシャバシャと水を掛けられ、頭のてっぺんから全身ビショビショになる。
「…………」
(そんな、容赦ないうさぎちゃんも……愛してるよ♡)
美兎ちゃんからの愛ある水攻めを甘んじて受け入れる俺は、その間髪入れない容赦ない攻撃に、もはや呼吸すらままならない。
(このままじゃ俺……。愛に、溺れちまうよ……っ♡)
それもまた、至福かな——。そんなことを考えながらも、容赦なく続く水攻めに本気で溺れかけては、アプアプと必死で呼吸を繰り返す。