君は愛しのバニーちゃん
「——もうっ! だから、しつこいってばっ!!」
———!?
突然聞こえてきた荒々しい声に、ピタリと足を止めると声のした方へと視線を向けてみる。するとそこには、何やら男と揉めている悪魔がいる。
(ん……? 痴話喧嘩か?)
先程までは仲良さげに見えていたカップルだったが、どうやら喧嘩でも始めたらしい。
(フッ……。これも、青春だな……。頑張れよ、ガキども)
今の内にこの場からずらかってしまおうと、再び2人に背を向けて歩き始める。
「なんでだよ! ……いいじゃんか、少しくらい!」
「……っだから! 嫌だって言ってるでしょ!?」
ただならぬ気配に、思わずピタリと足を止めた俺。チラリと後ろを振り返って様子を見てみれば、嫌がる悪魔の腕を無理矢理掴んで、必死に引き止めようとしている少年の姿が目に入る。
(おいおい……。そんなんじゃ、モテねぇぞ、少年……)
いくら相手は、あの悪魔とはいえ……。あれでは、女の子の扱いがまるでなっていない。『ロリコン変態野郎』の俺ですら、女の子に対してあんな粗暴な態度は絶対にとらない。
そこは、あれだ。最低限のモラルってやつだ。変態には、変態なりのモラルがあるのだ。
(…………。いや、待て。俺は別に、変態なんかじゃねぇし……)
1人、そんなことを考えていると、益々ヒートアップしてゆく痴話喧嘩。
「……やっ! ちょっ、痛いから! 離してってば!!」
「いいじゃんかよ、キスくらい! 減るもんじゃないし!」
「……っ、はぁぁあ!? 何言ってんの!? あんた、バカじゃないの!!?」
「……っ! なんでだよ! いいだろ!? ……な? ——って、あんた誰だよ!!?」
「…………。……あっ」
突然俺へと向けられたその視線に驚き、ピクリと口元を痙攣らせると小さく声を漏らす。
(ヤベッ……。思わず、飛び出しちまった。どーすんだ、これ……)
気付けば、少年の腕を掴んで悪魔から引き離してしまっていた俺。なんとも気不味い、今のこの状況。ハッキリ言って、かなりピンチな予感しかしない。
そう思ってゆっくりと視線を下へと向けてみると、そこには敵意剥き出しで俺を睨みつけている少年と……。その隣りには、唖然と俺を見つめている悪魔がいる。
(ゲッ……!!? ヤ、ヤベェ!!! ヤベェぞ、これ……!!? 何やってんだ……っ、俺のバカ野郎……ッ!!!)
今更ながらに、その場で1人あたふたとする。
(……あ、あああっ、悪魔に気付かれる前にっ……!! さっさとこの場からずらからなきゃ、ヤベェ……ッッ!!!)
「だからっ! 誰だって聞いてんだろ!? ……シカトすんなよ、クソダサ眼鏡っ!!」
(——!!? クソダサ……眼鏡……だ、と……? こん、の……っ、クソガキがぁぁああ!!!)
ピキリと額に血管を浮き立たせると、目の前のクソガキを見て口元をヒクつかせる。
確かに、今の俺はクソダサ眼鏡だ。わざとそうしているのだから、それは仕方のない事実。だが——。
こんな中坊のクソガキに、言われたかない!