君は愛しのバニーちゃん
(っ……この俺を、誰だと思ってやがる!! ナメやがって……っ、このクソガキがぁぁあ!!!)
「女の子には優しくしなきゃダメだよ、クソ……、少年。嫌がってるの……わかるよね?」
青筋を立てながらもニッコリと不敵に微笑めば、そんな俺を見て瞬時に青ざめるクソガキ。所詮は中坊のガキ。チョロいもんだ。
「……じょっ、冗談に決まってるだろっ! ——じゃあ俺、もう帰るから! ま……っまたな、衣知佳!」
掴んでいた俺の手を振り払うと、この場から逃げるようにして走り去ってゆく少年。そんな後ろ姿を眺めながら、悪魔のような笑い声を脳内で響かせる。
(……グハハハハッ!!! ブァカめっ!!! 俺に勝とうなんざ、1億年はぇーんだよっっ!!!)
「…………。あのぉ……」
「——ファッ……!!? ゥグッ!!」
いきなり目の前にドアップで現れた悪魔の顔に驚き、瞬時に後ろに身体を仰け反らせた俺。思いのほか仰け反ってしまったせいか、激痛の走った腰を抑えて悶絶する。
(ヤベェヤベェヤベェヤベェヤベェ……ッッ!!!! 絶対、ヤベェ……ッッ!!!!)
俺の顔を覗き込むようにして、ジーッと静かに俺を見つめている悪魔。その沈黙が、やけに恐ろしい。
俺は悶絶しながらも仰け反った腰に手を当てると、もう片方の手で顔を覆って天を見上げた。その体制で、悪魔の視線から逃れようと必死に顔を逸らす。
「…………」
とてもじゃないが、到底モデルをしているとは思えない、無様なポーズだ。だが——今は、そんな事を気にしてはいられない。
なんとか、この場を切り抜けなければならないのだ。
「助けてくれて……、ありがとうございます」
「…………ふぇ?」
予想外な言葉にチラリと指の隙間から様子を伺うと、ほんのりと赤く頬を染めた悪魔が俺を見て小さく微笑んだ。モジモジとした仕草が、いささか気にはなるところだが……。どうやら、この様子を見る限りでは、俺の正体には気付いていないらしい。
ホッと胸を撫で下ろすと、ズレた眼鏡を直しながら姿勢を整える。
「いやいや、礼なんていいよ。たまたま通りがかっただけだから。……それじゃ、気を付けてね」
今はバレていないとはいえ、いつ正体が見破られるとも限らない。長居は無用だ。
そう思うと、俺はそれだけ告げるとそそくさとその場を後にしたのだった。