君は愛しのバニーちゃん
「これ、うちの出し物。……本当はコスプレ着て写真撮るだけなんだけど。せっかく遊びに来てくれた2人には、1時間レンタルさせてあげたよ」
「へっ、へぇ〜。そうなんだ……。にににっ、似合ってるね。……大和……っ。本当に、ありがとう……っ」
こんなにも素晴らしい機会を与えてくれた大和に心から感謝をすると、喜びから溢れ出た涙がキラリと一雫、俺の頬を伝って床へと落ちた。
「瑛斗先生っ。これね、クララだよ。知ってる?」
「……うん」
ハイジなんて見た事もなければ、ストーリーすらもよく知らなかったが……。楽しそうに話す美兎ちゃんの姿を見ているだけで、その可愛らしさから自然と俺の顔は蕩ける。
「じゃあ……あのシーン、やるね?」
「うん……っ♡」
美兎ちゃんの言う、”あのシーン”が何なのかはよくわからないが……。はにかむような笑顔がただただ可愛くて、俺の顔面は蕩ける一方。
車椅子に手を掛け、立ちあがろうとする美兎ちゃんの姿を見守る。
「…………!」
これはあれだ。『クララが立った!』とかいう、あのシーン。その名場面らしき部分なら、ハイジを見たことのない俺でも知っている。
そんな事を考えながら、床に片足を置いた美兎ちゃんの姿を眺めていた——次の瞬間。
残されたもう片方の足を車椅子に引っ掛け、俺に向かって倒れてくる美兎ちゃん。
その姿は——まさに、俺の胸へと飛び込んでくる天使のよう。なんて素敵なアドリブなんだ。
これは……。今日一日、慌しくも頑張って乗り切った俺への、ご褒美なのだろうか——?
「っ、……ぐふっ♡」
堪えきれない喜びから、思わず溢れ出た小さな笑い声。俺は迷うことなく両手を広げると、そのご褒美を受け入れる体制に入った。
(さぁ……っ!! 俺の胸に、飛び込んでおいで……っ♡♡♡♡)
———ゴンッ!!!!
「フグゥ……ッッ!?♡!?♡」
まるで落雷にでもあったかのような強い衝撃に、強打した顔面を真っ赤にさせると、そのまま卒倒して後ろに向かってぶっ倒れた俺。
予想していた以上に激しい、美兎ちゃんからの求愛行動。どうやら、俺の準備では不足だったようだ。
流石は予測不能な小悪魔ちゃん。頭突きとは、恐れ入った。
激しすぎるその求愛行動に酔いしれながら、仰向けに倒れたままピクピクと痙攣する。
「……っ、きゃぁぁあーー!! 瑛斗先生っ!!!」
強打した鼻からドクドクと鼻血を流す俺を見て、無事に立ち上がることのできた美兎ちゃんが顔面を蒼白にさせる。
この世の何よりも愛しい、俺の可愛い可愛い天使ちゃん。君が無事なら、俺の犠牲は厭わない——。
「…………」
(……あっ♡ クララが……っ、立(勃)った♡♡♡♡)
パンツ越しに見える美兎ちゃんの姿を見上げながら、ズキズキと痛み始めた股間に身悶える。
——主演、美兎ちゃん&俺の『クララ』。
これぞ、感動の名シーンだ。
俺の頭上で慌てふためきながら、パンツ付きという素晴らしいアドリブを披露してくれる美兎ちゃん。
そんな姿を堪能しながら、俺はドクドクと流れ出る鼻血で貧血をおこしつつも、ニヤリと不気味に微笑んだのだった——。