君は愛しのバニーちゃん
※※※





「なんで俺達まで行かなきゃならないんだよ……」


 うんざりとした顔でそう告げる大和(やまと)の腕を掴むと、俺は般若の如く顔でグワッと大和に詰め寄った。


「っ、バカ野郎! 俺一人じゃ、心細いだろっ!? 受験に失敗したらどーすんだよ!!?」

「別に、瑛斗(えいと)が受験するわけじゃないだろ……」

「まぁまぁ……。いいんじゃんか、大和。憧れのJKとお近付きになれるチャンスだぞ? やっぱいいよなぁ……JK」


 相変わらずうんざりとした顔をしている大和の肩に触れると、遠くの方を見つめてフッと鼻から息を漏らした(たける)


「ハァ……。バカだなぁ、健。受験日なんだから、在校生が来てるわけないだろ? それに俺、彼女いるし。JKになんて興味ない」

「……えっ!? JKいねぇの!!? しかも、サラッと彼女自慢!!? ……っ、瑛斗ぉーー!! お前……っ、JKに会えるだなんて、俺のこと騙したな!!?」

「っ、……煩いっ! どーせ暇だろ!? お前は黙って俺に着いてくりゃいーんだよっ!」

「おいっ!! それが、人に物を頼む態度かよ!?」

「…………。もう……恥ずかしいから、二人とも静かにしててくれよ」


 校門前でそんなやり取りをしている中、俺達の目の前をチラホラと通り掛かってゆく中学生達。そのほとんどが、何事かとこちらに視線を向けながらも、関わりたくないと言わんばかりに無言で通り過ぎてゆく。

 俺達は今、県内の公立高校である『葉練池(はれんち)高等学校』へと来ている。それは何故かというと——。
 今日が、美兎ちゃんの高校受験日だからだ。
 
 普段の美兎ちゃんの成績を考えると心配は無用なのだが、なにせ高校受験だ。緊張で思わぬミスや、体調不良を起こすかもしれない。そう思うと、居ても立っても居られなかったのだ。


(やっぱ、『家庭教師』として見守る責任はあるしな……)


 なんて想いも勿論本当だが、ただ単純に、美兎ちゃんに会いたいだけだったりもする。”家庭教師と生徒”という立場を利用して会えるのも、残り僅かな時間しか残されていないのだ。


「——瑛斗せんせぇ〜!」



 ———!!?



 突然聞こえてきたその可愛らしい声に、すぐさまピクリと反応をみせた俺。右手に収まる潰れた顔の健を押し退けると、駆け寄る美兎ちゃんの姿を眺めて鼻の下を伸ばす。
 その姿は——まさに今、俺の胸に向かって飛び込んでくる天使! 俺は迷うことなく両手を広げると、(よこしま)な感情にまみれた心で曇りなき笑顔を見せた。


(っ……さぁ! 今すぐ、俺の胸に飛び込んでおいで……っ♡♡♡♡)


「……瑛斗先生、本当に来てくれたんだね!? 昨日、急に来るってラ○ンが来たから、ビックリしちゃった! …………。瑛斗先生、どうしたの?」

「…………」


 俺の期待も虚しく、すぐ目の前でピタリと足を止めた美兎ちゃん。両手を開いたまま立ち尽くしている俺を見て、キョトンとした顔をしている。相変わらず、焦らしプレイがお上手な小悪魔ちゃんだ。
 この広げた俺の両手は、何処(いづこ)へ?

 所在なさげに宙に浮いたままの両手をゆっくりと下ろすと、何事もなかったかのように平静を装う。


「……うん、心配だったからね。美兎ちゃん、受験お疲れさま。大丈夫だった?」

「うんっ。ちょっと緊張しちゃったけど……たぶん、大丈夫だと思う」


(フグゥゥ……ッ! なんてっ、可愛さだっっ!!!)


 寒さのせいか、赤く染まった頬ではにかむような笑顔を見せた美兎ちゃん。その姿がなんとも愛らしくて、今すぐ(ねぎら)いの抱擁をしてあげたい。……いや、抱擁したい!


「……そっか、なら良かった」


 抱きしめたい衝動を堪えると、乱れはじめた呼吸を抑えながら(とろ)けた笑顔を向ける。


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