君は愛しのバニーちゃん
(愛してる♡ 愛してる♡ 愛してる♡ 愛してる♡ ……愛してるよ♡ うさぎちゃんッッ♡♡♡♡)
その後、生徒達と別れた美兎ちゃんを連れて帰路につく道すがら、隣りを歩く美兎ちゃんを見つめながら呪文のような愛を囁く。
「……美兎ちゃん。よく、俺だってわかったね?」
「うんっ。知ってたから」
「……え?」
(知ってたって……、何を……?)
バクバクとし始めた鼓動を感じながら、隣にいる美兎ちゃんを見つめて小さくゴクリと喉を鳴らす。
「瑛斗先生が変装してるの、ミト知ってたの」
「……えっ!!?」
(し、ししし、知ってた……!!? エッ!!? いい、いつから!?△!?♯!?◯!?)
ズンドコズンドコと鼓動を鳴り響かせながら、パニックで1人その場であたふたとする。
一体、美兎ちゃんはいつから気付いていたというのか……。
もしや、思わず目の前に飛び出てしまった文化祭の時? それとも、あの夏祭りの時だろうか……? いや、もしかしたら最初から——!
やましい事だらけで、もはや尋常じゃない程の音を立て始めた俺の心臓。このままでは、心臓破裂で爆死してしまいそうだ。
隣にいる美兎ちゃんを見つめながら、その口が開かれるのを緊張した面持ちで見守る。
「文化祭の時にね……気付いちゃったの。何で変装してるのかは知らないけど。きっと、何か事情があるのかな〜? って」
そう言ってフフッと笑って見せた美兎ちゃん。とりあえず、文化祭の時と聞いて一安心する。
どうやら、夏祭りのマシュマロ事件やブランコでの初対面は、俺と同一人物だとは思われていないらしい。それさえ隠蔽できるのなら、正体がバレようと何ら問題はないのだ。
普段のチャラ男バージョンの俺では怖がられるかと思って変装していたが、どうやら不要な心配だったらしい。とはいえ、これもダサ男の俺として築き上げてきた、確固たる信頼があってこそなのだ。
——そう! これこそが、愛のパワー♡♡♡♡
「そ、そうなんだよね……ちょっと、事情があって。それにしても、よくわかったね」
「うん。だって、左目のホクロが同じだったもん。声だって同じだし」
「ハハッ。そっか、声は変えられないもんね。……それにしても凄いね、皆んな気付かなかったのに。健達だって、言われなきゃわからないって言ってたよ」
「うん。……ミトね、瑛斗先生の事ちゃんと見てるよ?」
そう告げると、ほんのりと赤く頬を染めた美兎ちゃん。これは、俺に恋していると思って間違いないだろう。
俺の瞳に映っている美兎ちゃんから確かに感じる、俺への愛情。これこそが、待ちに待っていた——!
(今度こそ正真正銘の、愛の告白……ッッ!!?♡♡!!?♡♡)
ズンドコズンドコと鼓動を鳴り響かせながら、はやる気持ちを抑えて冷静を装う。
「……え? それって、どういう——」
「瑛斗先生っ。帰ったら、山田さんのお散歩に行こうね?」
エヘヘッと微笑むと、小走りに前を駆けて行く美兎ちゃん。
(…………エッ!!?)
置き去りにされた心のまま暫し呆然とその場に佇むと、慌てて美兎ちゃんの背中を追いかける。
「み、美兎ちゃん待って〜!」
相変わらずの小悪魔っぷりに困惑しつつも、まんざらでもない追いかけっこにニヤリと微笑む。
これはつまり、美兎ちゃんを捕まえればそのまま俺のモノにしてもいいと、つまりはそういうプレイなのだ。
(全く……悪戯好きな、困ったちゃんだぜ……っ♡♡♡♡♡)
そこはかとなく深い愛のパワーで、チャラ男の姿の俺を受け入れてくれた美兎ちゃん。
ならばこの年齢差も障害さえも、全て愛のパワーで乗り越えてみせる。それが男としての、俺の果たすべき責任なのだ。
「グフッ♡ グフフフフ……ッッ♡♡♡♡」
不気味な笑顔を浮かべながら、全速力で美兎ちゃんの背中を追いかける。性別や体格差を考えるとフェアではないかもしれないが、やはりここは本気でいかせてもらおう。
なにせ、美兎ちゃんが俺のモノになるかどうかが賭かっているのだ。もはや、笑い声が止まらない。
不気味な笑い声を響かせながら走り去る俺を見て、通りすがりの人達が不審そうな目を向ける。そんな視線に気付かないまま、美兎ちゃんとの追いかけっこを堪能する俺。
その顔は、溢れんばかりの幸せな笑顔で満ちていた。
——後日、『不気味な男から女の子が逃げていた』という噂を耳にした俺。
その噂がまさか自分だとも気付かないまま、美兎ちゃんの身の安全を心配した俺は、その後も暫く護衛という名のストーカーを続けるのだった。
—完—