出血令嬢はヴァンパイア公爵様に愛される

 ふと我に返り、回想に浸ってしまっていたことに気づいたエリザベートが横目でジャックを伺おうとすると、いつの間にか、既に自分の隣にはいなかった。いつもの通り早速どこかに消えてしまったようだ。こういう所も好きになれない理由のひとつだ。自分で言うのも何だが、少々ロマンチストな気質のある自分と、恋愛に関して奔放な彼ではそりが合わないのも当然だろう。

 ワルツが流れるとあちこちで男女が踊り始める。居心地が悪く逃げるように壁際に寄ると、一人でいるエリザベートを不審に思ったのかそれとも哀れみかは分からないが通り過ぎる人々の視線が痛い。どうにかならないものかとジャックを探してみるとホールの中央に姿を見つけた。が、どこかの令嬢と踊っている。婚約者である自分を差し置いて、楽しげにステップを踏み、何かを囁き合う二人はきっと傍から見たらお似合いの恋人同士だろう。

 いたたまれず、その場から逃げたくて外への出口へと向かう。その道すがら、令嬢たちが集まって噂話に花を咲かせていた。昔は付き合いで仕方なく参加していたが、父のことがあってからはそこに呼ばれなくなった。今となってはせいせいしたような気分だ。しかし、その中に自分の話が出ているのに気づくとうんざりしたエリザベートはひそかに顔を歪ませ、ぐるりと背を向けた。

 夜会なんて好きじゃない。本性を作り物の笑顔の下に潜ませた人たちと上辺だけの会話に勤しむなんて性に合わないし婚約者はいつもあんな風だ。何一ついいことなんてなく、毎回ひたすらに無駄な時間だけが過ぎている。

 誰もいないテラスへ出て、涼しい外の空気を吸うと淀んだ肺が浄化されていく気がする。ふと、視界の端に庭へと繋がる階段を捉えた。それが無性に気になり、エリザベートは喧しいオーケストラを背後にそっとその場を立ち去った。

< 3 / 8 >

この作品をシェア

pagetop