出血令嬢はヴァンパイア公爵様に愛される
馬車が走る。毎日のように繰り返される夜会に悉く招待されて、伯爵令嬢という身分上、出席せざるを得ないエリザベートは密かにため息をつく。けれど、今日は少しばかり心情に変化があった。その理由はもちろん、あの夜に出会った黒い彼だった。

会場内に入ると、いつだって変わり映えのない光景が待っていた。相変わらず婚約者は最初だけ一緒にいて、そのうちに離れていってしまった。彼の横に侍っている、毎度同じ令嬢は勝ち誇ったような笑みをこちらに向けていて、目が合ってしまったエリザベートは嫌悪感に似たようなものを感じて思わず視線を逸らした。なんだか負けたような気分で、不愉快だった。

逃げるように壁際に寄ってから、気を取り直そうと『彼』を探す。特徴的な漆黒の髪は容易に見つけられると思ったのだけれど、いくら探しても見つけられなかった。そこそこ大きな貴族であるこの屋敷の主が、彼のことを招待していないなんて有り得るのだろうか。招待されていないということは、対立している貴族なのか、平民なのか(以前会った時の格好からしてそうではないと分かっているけれど)、それとももっと上の階級であるのかーー。

「私ったら、何を考えているの」
また物思いに耽ってしまっている自分に気づいて、エリザベートはぶんぶん頭を振った。そして、そんな自分に向けられた、周囲からの好奇の視線を感じて。

エリザベートは息苦しさから逃げるように、人気の少ない外に出たのだった。

< 7 / 8 >

この作品をシェア

pagetop