夜の隙間のガードレール



言えないなあ、って、こんなの繰り返して。


もうぜんぶ忘れたいよ、って。


呆れるほど溜まった諸々の苦と無垢な恋情と、醜い嫉妬と嫌悪が、消えてしまえばいい、って。


願っても。


…… “ 兄妹 ” 、 “ 義理 ” 。今聞くのは正直キツい。




「どうしたの? 詩花」




泣くのはだめ。


泣くな。


迷惑かけないようにって、いい子ちゃんぶってる自分が胸奥でだいぶ酔ってる。


酔った勢いで無理難題。


無理でしょ、鬼畜か。この状況は泣くしかねえよ。




「何で、も、」




ないです。


掠れてしまった声にどうか気づいて。


うそ、気づかないでね。




「頼りにならないね、俺は」




困ったような声が降ってきて、頭にやさしい温度が乗る。


それが彼の手だと気づいたとき、あの健気な恋歌を思い出した。


欲しかった。


手に入らない。


レア。


揺らいだ視界を閉じて、目元を拭う。


見栄っ張りで生意気だとわらわれてもいいけど、そのぶん伝えられないことは歯痒いから。


私、勝てない。


これから先も勝てそうにない。


降参。白い旗を高くあげる。




「頼りに、なります、よ」




これくらいで報われた気になるのは余程のお姫さまか、少女漫画の主人公。私は違う。強欲で可愛げがない。




「ありがとうございます、慰めてくれて」

「ん。帰ろうか」






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