夜の隙間のガードレール






私のほんのすこしの逃避行、って言ってもほとんどカラオケ。すこしゲームセンターのライトに照らされていたくらい。


藍を零したような空。申し訳程度にわらう星。雲で滲んだ弓張月。


道路。


私、こんなに遅くまで出歩くなんてはじめてで。


でもすこしだけステキな気がして。


道を照らす電灯に伸びる影。気味が悪いほど不恰好に長身で細々していて、思わず大袈裟に足を踏み出す。


あの店員はもういなかった。


代わりに若い女の人が元気よく愛想笑いを浮かべてた。


私のこと、ちょっと驚いたような目で見て。


だけど利口。世渡り上手。笑顔は明るかった。


つめたい風が髪を揺らす。


通知音と同時に震える携帯を、ポケットから持ち上げる。




「放っていていいのに、」




放っていていいんだ。私のことなんか。


放っていてくれないと困るんだ。


わかってよ。…理不尽だけど、わかってください。



[ 自分で帰るので気にしないでください ]



打って、送信。


敬語を使うあたり、優等生はそろそろ起床したらしい。


だって今さら今日を怖がっている。




「私なんて、」




“ 流石優等生 ”

“ 頼りにしてるよ ”


わかって。


“ あの子ずるいよ。成績良いだけで気に入られちゃって ”

“ ほんとはカンニングでもしてるんじゃないの ”


わかって!







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