夜の隙間のガードレール
◇
私のほんのすこしの逃避行、って言ってもほとんどカラオケ。すこしゲームセンターのライトに照らされていたくらい。
藍を零したような空。申し訳程度にわらう星。雲で滲んだ弓張月。
道路。
私、こんなに遅くまで出歩くなんてはじめてで。
でもすこしだけステキな気がして。
道を照らす電灯に伸びる影。気味が悪いほど不恰好に長身で細々していて、思わず大袈裟に足を踏み出す。
あの店員はもういなかった。
代わりに若い女の人が元気よく愛想笑いを浮かべてた。
私のこと、ちょっと驚いたような目で見て。
だけど利口。世渡り上手。笑顔は明るかった。
つめたい風が髪を揺らす。
通知音と同時に震える携帯を、ポケットから持ち上げる。
「放っていていいのに、」
放っていていいんだ。私のことなんか。
放っていてくれないと困るんだ。
わかってよ。…理不尽だけど、わかってください。
[ 自分で帰るので気にしないでください ]
打って、送信。
敬語を使うあたり、優等生はそろそろ起床したらしい。
だって今さら今日を怖がっている。
「私なんて、」
“ 流石優等生 ”
“ 頼りにしてるよ ”
わかって。
“ あの子ずるいよ。成績良いだけで気に入られちゃって ”
“ ほんとはカンニングでもしてるんじゃないの ”
わかって!