その瞳に映るのは
深い意味 side 成瀬
「………。」
怒りのあまり何も動けなかった。
俺の前から逃げるようにして玄関に駆け込んだ紗夏をただ見てるしか出来なかった。
紗夏の逃げ込んだ玄関をしばらく見つめてから、諦めて帰ろうと右手で支えてた自転車のカゴに視線を落とした。
そこには白い箱。
店を出た時に『同じ物だけど残りのケーキ良かったら食べて』と照れくさそうに手渡してくれたケーキの箱。
紗夏の手作りのチョコ……。
好きな子が俺の為に手作りしてくれたチョコ。
中1の時には市販のチョコしか貰えなかった。
だから店で出されたチョコケーキがめちゃくちゃ嬉しかった。
予想以上の美味さに全部食べるのが勿体なかったけど残すなんて選択肢も無くてすぐに食べてしまった。
食べた事に後悔は無かったけど、せっかくのチョコを味わう余裕も無かった。
だから、店を出た時に同じ物を手渡されてヤバいくらいに嬉しかった。