その瞳に映るのは
その時の事を思い出して気付いた。
あの時は、紗夏が自分で動いたからだと。
原因が何であれ、紗夏が自分から俺に近付いてくれたんだ。
紗夏の意思で二人乗り出来たんだ。
だから店にも入れた。
あの可愛いメイド服姿を俺には見られたくなかったと言ってた。
俺には……俺の事が好きだと仮定するなら、好きな人には見られたくなかった?
恥ずかしい格好だから?
…似合ってたけどな。
だからあの日は良い雰囲気になれた、のか?
でも次の日に逃げられた。
………いや、正確には逃げてない?
逃げるつもりなら俺が店に行く前に断わればいいだけだ。
俺のわがままで作ってくれたケーキ。
そして帰り際の拒絶。
そうだ。
紗夏はあの時、俺が今井と付き合ってると思ってたんだ。
俺に彼女がいると思ったから逃げた?
じゃあ彼女がいないとわかっていたら?
俺はペダルにかけた足に力を入れて慌ててその場から走り出した。