あたしを撫でる、君の手が好き。

「そうなの?ありがとう、亜聡くん。じゃあ、適当に降りてきてね」

「わかりました」

あっくんがそう言うと、お母さんの足音がゆっくりと去っていった。

スリッパのパタパタと鳴る音が完全に聞こえなくなったとき、あっくんがようやくあたしを抱き寄せる腕の力を緩めてくれる。


「あっくん、課題って何?嘘ばっかりじゃん」

プハッと息を吸い込みながらあっくんの腕から顔を出すと、あっくんが意地悪く笑ってあたしを見下ろしてきた。


「明日までの課題があるっていう嘘の設定を先に持ち出してきたのはシロだろ」

「だってそれは……」 

あっくんが突然家に来て、どうすればいいかわからなかったから。


「俺と顔合わせるのが嫌だった?」

「そういうわけではない、けど……」

カラオケの店の前で冷たくされて悲しかったし、徳永さんと仲良さげに写るあっくんの写真を見てすごく嫉妬した。

それでなんとなくあっくんと顔を合わせづらかったけど……、嫌だったわけじゃない。


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