あたしを撫でる、君の手が好き。

廊下を全力で走っていると、階段の手前で誰かに腕をつかまれた。


「シロちゃん?どこ行くの?」

それがすぐに富谷くんだとわかったけれど、心の中がぐちゃぐちゃ過ぎて、平静な対応ができそうにない。


「ごめん、今から部活で。急いでる」

顔を見せないように腕を振り払おうとすると、富谷くんがあたしを引っ張り寄せて、横から顔を覗き込んできた。


「でも、シロちゃんなんか変────……」

キュッと唇を噛んだあたしの顔を見た富谷くんが、驚いたように言葉を飲み込む。


「シロちゃん、泣いてる?」

「違う……」

「でも……」

富谷くんに心配そうな声で訊ねられて、頭を小さく左右に動かす。泣きそうだけど、まだギリギリ泣いてはいなかった。


「あたし、部活あるから」

今度こそ富谷くんを振り払おうとしたら、彼があたしの頭をふわりと優しく撫でてきた。

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