あたしを撫でる、君の手が好き。

さっきまで徳永さんと話していたはずなのに……

あたしのことを走って追いかけてきてくれたのか、背中にあたるあっくんの胸が、僅かに上下に揺れていた。


「何だよ、亜聡。シロちゃんのこと『ペットみたいなもん』とか言っといて、結局いつも必死じゃん。今シロちゃんが泣きそうだったのだってどうせ────」
「うるさい。シロ、行こ」

あっくんが不満げに眉を寄せる富谷くんを押しのける。

それからあたしの手をひくと、富谷くんに背を向けてスタスタと歩き始めた。


「あっくん、行くってどこに?」

「どこでもいいけど。静かに話できるとこ」

ぼそりとそう言ったあっくんがあたしを連れて入ったのは、廊下の一番端にある化学準備室だった。

あたしをそこに押し込んで向き合ったあっくんが、「で?」と小さく首を傾げる。


「なんで急に走って逃げてったの?」

「なんで」も何もない。徳永さんに話しかけられて、あたしのことなんて見えなくなっていたくせに。

そんなあっくんにあたしが問い詰められるなんて。なんだか、ものすごく理不尽だ。


< 137 / 227 >

この作品をシェア

pagetop