あたしを撫でる、君の手が好き。
さっきまで徳永さんと話していたはずなのに……
あたしのことを走って追いかけてきてくれたのか、背中にあたるあっくんの胸が、僅かに上下に揺れていた。
「何だよ、亜聡。シロちゃんのこと『ペットみたいなもん』とか言っといて、結局いつも必死じゃん。今シロちゃんが泣きそうだったのだってどうせ────」
「うるさい。シロ、行こ」
あっくんが不満げに眉を寄せる富谷くんを押しのける。
それからあたしの手をひくと、富谷くんに背を向けてスタスタと歩き始めた。
「あっくん、行くってどこに?」
「どこでもいいけど。静かに話できるとこ」
ぼそりとそう言ったあっくんがあたしを連れて入ったのは、廊下の一番端にある化学準備室だった。
あたしをそこに押し込んで向き合ったあっくんが、「で?」と小さく首を傾げる。
「なんで急に走って逃げてったの?」
「なんで」も何もない。徳永さんに話しかけられて、あたしのことなんて見えなくなっていたくせに。
そんなあっくんにあたしが問い詰められるなんて。なんだか、ものすごく理不尽だ。