あたしを撫でる、君の手が好き。

「お弁当箱忘れちゃって、取りに来たの。あっくんは?」

「あー、えっと。俺はなんというか……」

満面の笑みで近付いていくと、あっくんはあたしを避けるように少し後退りした。

それだけでなく、廊下の向こうをやたらと気にしていて。なんだか歯切れも悪い。


「あっくんも忘れ物?」

「そうじゃなくて?俺は、なんというか……呼び出し?」

「呼び出し?」

何のことかよくわからなくて首を傾げると、あっくんが気まずそうに目を伏せた。


「部活終わったら教室に来いって呼び出されたんだ。春菜に。なんか、話があるんだって」

「徳永さん……」

そこまで言われて、あっくんが言っている『呼び出し』の意味があたしにも理解できた。

人のいない放課後の教室にわざわざ呼び出して話すことなんて、おそらくひとつしかない。

徳永さんは、あっくんに告白するつもりなのだ。

そして、あたしに気まずそうな態度をとるあっくん自身も、これから何が起きるか、たぶんわかっている。

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