あたしを撫でる、君の手が好き。
「るみ、苦しい」
あっくんがあたしの腕のなかで笑いながら、くぐもった声を出した。そのとき────。
階段をパタパタと上がってくるスリッパの音が聞こえてきた。
「るみー!」
お母さんの呼ぶ声がして、あっという間に部屋の前まで足音が近付いてくる。
あっくんが慌ててあたしから飛び退き、あたしも焦ってはだけた制服を元に戻す。
ふたりして背中合わせで正座して、不自然に体裁を整えたタイミングで、ノックと共にお母さんが部屋のドアを開けた。
ドアに背を向けていたあたしが、正座のまま振り向くと、お母さんが不思議そうに首を傾げる。
だけどそれだけで、特に何も突っ込んではこなかったからほっとした。
「亜聡くん、そろそろ夜ご飯できるんだけど、一緒に食べて行く?そうは言っても、ただのカレーなんだけど」
開いたドアから、たしかにふわっとカレーの香りが漂ってくる。