あたしを撫でる、君の手が好き。
「おー、春菜。すぐ行く」
そうだ。徳永 春菜ちゃん、だっけ。
富谷くんが名前を呼ぶのを聞いて、ジャージ姿で腰に手をあてている彼女の名前を思い出した。
素が可愛い子は、怒った顔で声をあげていても可愛いな。
徳永さんのことを見ながらぼんやりそんなことを思っていると、スポーツバッグを持った富谷くんがあたしの肩に軽く手をのせた。
「バイバイ、シロちゃん」
「あ、うん……バイバイ」
慣れたふうに肩に触れられた手に驚いて、一瞬反応が遅れる。
顔の下で小さく手を振ると、富谷くんもあたしに手を振って、教室から出て行った。
富谷くんはほんとうにあたしのことを「シロ」って呼ぶつもりなんだ。
嫌なわけではないけれど、あっくん以外の男の子にそのあだ名で呼ばれると、変な感じがした。