あたしを撫でる、君の手が好き。
「だ、だめだって。そんな大きい声で言ったら、バレる」
「あんだけ見つめといて、今さらでしょ」
我に返ってあたふたとするあたしを見て、桃佳が揶揄うようにクスリと笑う。
「ほら。岸も、るみに気付いてるよ」
桃佳に言われてぱっと振り向くと、濡れた前髪をかきあげておでこ全開のあっくんと目が合って。瞬時にぱっと逸らされた。
「無視された」
「いや。あれは、るみのこと見てたのがバレて照れた、でしょ」
遠くで背中を向けてしまったあっくんを見つめて肩を落とすあたしに、桃佳が見当違いなことを言ってくる。
「モモちゃん。いつもそうやって期待させるの、やめて」
「なんでー?期待すればいいじゃん」
「できないよ」
「大丈夫。岸だって、絶対るみのこと好きだよ」
桃佳が口の横に手を当てながら、こそっとささやく。
もしそうなら、すごく嬉しいんだけど。
濡れた体操着の裾をつかんでパタパタさせながら更衣室のほうに歩いていくあっくんを、ドキドキと見つめる。