あたしを撫でる、君の手が好き。

あたしの前では出られない電話なんだ。

すぐにそう気付いて、胸が苦しくなった。しかも、チラッと盗み見えた着信相手の名前が『春菜』だったから、余計に。

あっくんと徳永さんは、あたしが知らないあいだにずっと距離を縮めていたらしい。

だとしたら、図々しくあっくんに家まで送ってもらうとかダメじゃん。

あっくんにもらったスポーツドリンクのペットボトルを、潰れそうなほどに強く握りしめると、あたしはベッドから降りた。

立ち上がったときに少しだけ立ちくらみがしたけれど、それもすぐに治る。

あっくんが運んできてくれたのか、ベッド脇にはあたしの鞄が置いてあった。それを拾い上げると、上履きをペタペタ引きずりながら歩く。

保健室のドアを静かに開けると、廊下で電話するあっくんの背中が見えた。

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