あたしを撫でる、君の手が好き。
2週間前の体育祭のあと、あっくんは倒れたあたしを家まで送り届けてくれた。
あっくんとはこれまでに何度か一緒に学校から帰ったことがある。
だけどその日、あたしたちを包む空気は今までにないくらいにトゲトゲしていて気まずかった。
電車の中でも家までの歩くあいだも、あっくんはあたしのそばにいるのにひとことも口を聞いてくれない。
駅のホームや階段で人の波に揉まれて遅れをとったあたしをときどき振り返ってはくれたけれど、それ以外は目も合わせてくれなかった。
きっと、同じ電車に乗っている周囲の人たちにも、あたしたちの険悪な空気が伝わっていただろう。
こんなに気まずい空気になるくらいなら一緒に帰らなければよかった。そう思うくらいに、家に着くまでずっと息苦しかった。
このままだったら、家に入る前に「バイバイ」とひとこと言うことすら気まずい。
自宅前で立ち止まり、どうやって別れの言葉を切り出そうか困っていると、あっくんがようやくあたしと目を合わせてくれた。無表情で、あたしを睨むみたいに。