ボーダーライン。Neo【上】
「十七歳、よね?」

 ーー若いなぁ……

「うん。明日、帰りの便に乗って。日本に着いたら十七」

 そっか、と呟き、あたしは無理やりに笑ってみせた。

「じゃあ日本に着いたら。真っ先におめでとうって言わなきゃね?」

 ーー同い年なら良かったのに、なんて。どうして思っちゃったんだろう。今まで考えた事も無かったのに。

 秋月くんは真顔になった後、何の前触れもなくあたしの手を握った。

「秋月く」

「早く中、入ろ?」

「う、うん」

 手を引かれただけでドキドキするなんて、あたしはまだ彼を、恋愛対象として見ているのだろうか。

 八つも年下の、教え子相手に、どうかしているとしか思えない。

 次に付き合う彼を見つけるなら、必然的に結婚相手になるだろう。秋月くんだけは有り得ない。

 彼が大人になるのを待っていたらそれこそ婚期を逃しかねないから……

 あたしは彼の背中を見つめながら、込み上げる感情を必死に打ち消した。




 国立美術館を出た後、秋月くんの要望で十分ほど歩き、ソーホーにある穴場的なカフェに入った。

 昼食時間をとうに過ぎた昼下がりなので、既にお腹はペコペコだ。

「凄い素敵な美術館だったね? 何かあたし、感動して鳥肌たっちゃった」

「ハハっ、マジ? 良かったね~」

 赤く揺れる紅茶を見つめ、あたしは小さく微笑んだ。
< 119 / 269 >

この作品をシェア

pagetop