ボーダーライン。Neo【上】
 夜のしじまに、プシュ、とプルタブを引く音が響きわたる。

「明日。帰っちゃうんだね」

 無言でいるのも息が詰まり、あたしはポツリと呟いた。

 彼は目を伏せ、うん、と相槌をうつ。

「初の海外、どうだった?」

 秋月くんが明るい口調で訊ねた。あたしは彼を見て、ゆったりと微笑む。

「凄い、楽しかったよ? 外国って交通機関とか、日本と違って難しいけど。
秋月くんがいたから心強かったし。何か凄く、有意義に過ごせた感じ」

「ハハ、そりゃ良かった」

 彼の笑顔を横目に、ビールをひと口飲んだ。

「あ、今日一緒に撮った写真。焼き増ししたらまた渡すね?」

「うん」

 頷きながら、秋月くんはミネラルウォーターを脇に置いた。あたしは両手で包み込んだ缶を見つめる。

「秋月くんは。楽しかった?」

「……え?」

 毎年恒例の、彼らの旅行に無理矢理付いて来たわけだが、あたしと美波が参加した旅行は、彼にとってどうだったのだろうか。そう思い、訊ねた。

 秋月くんのプライベートの時間を独占できたあたしは、勿論充実し、楽しかった。

 あたしは、ありがとうの意味も込め、彼を見て微笑んだ。

 彼は茶色の瞳を二、三度瞬き、うん、と静かに頷いた。

「それは良かった!」

 秋月くんの真似をし、あたしは破顔する。
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