ボーダーライン。Neo【上】
 彼と二人きり、星空を見ながら、真夜中に会話しているなんて、普通じゃ考えられない。

 月明かりと、テラスに備え付けられたオレンジのライトを浴びる秋月くんは、いつも以上に輝いて見えた。

 出会った頃と同じように、秋月くんは遠慮なく、あたしを見ている。

 彼の真顔に笑みを添えたくて、あたしは寝癖のついた茶髪に手を伸ばした。

「やだ、秋月くん。もう寝癖ついてる」

 何の警戒心も無かった。

 だって八つも年下だし、生徒だったから。

 それに秋月くんも、あたしと同じような感覚で接していると思っていたから。

 彼にとってあたしは、尊敬できる教師じゃなくても、気のおけるお姉さん的存在ではあると思い込んでいた。

 だから当然、彼に何かをされるなんて事は、微塵も考えなかった。

 ピョンと跳ねた茶髪に、指先が触れる間際。

 秋月くんは瞬時に距離を詰めた。あたしの不意をつくように、顔を傾け、気付いた時には、彼と唇を重ねていた。

 あたしは突然の事に肩を揺らし、持っていた缶ビールを手から落とした。

 ゴトン、と落下音が響き、トクトクトクと中の液体が溢れ出す。

 一体全体、何がどうして、秋月くんにキスされているのだろう?

 冷静なあたしが、取り敢えず理由(わけ)を訊かなければと、彼の肩を遠慮がちに押した。
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