ボーダーライン。Neo【上】
 むしろそれがいけなかった。

 秋月くんはあたしの抵抗に反発して、あたしの両手を拘束しにかかる。そして同時に、キスはより深いものになった。

 このままじゃいけない、とあたしは無理矢理顔を背けた。

 唇が離れた拍子に、両手の拘束も解かれる。

 彼を見て、何で、と問いたかった。

 けれどあたしは、そうしなかった。秋月くんの表情を見て、そう出来ないと悟った。

 だからとにかく、今起こった事を、無かった事として取り繕おうと思った。

「あ。ビール。こぼしちゃったね。どうしよ、怒られちゃう……っ」

 ウッドデッキには思った通り、大きなシミが出来ていた。

 出来るだけ動揺を見せないように、いつものお姉さんの顔で、取り敢えず秋月くんと距離を取ろう、と。自然な動作で落ちた缶を拾おうとするのに、秋月くんがそれを阻止した。

 あたしの肩をグッと掴み、動く事を禁じていた。

「いいから、そんなの」

「でも」

 彼は肩から手を移し、パーマのかかった髪に触れた。あの、繊細でしなやかな指先で、あたしの髪を触り、頬を撫でた。

「秋月、くん?」

 彼の真剣な瞳を、見ていられないと思った。

 あたしは男の人の、この瞳の色を知っている。
< 125 / 269 >

この作品をシェア

pagetop