ボーダーライン。Neo【上】
 曖昧にキスを受け入れた自分に嫌気がさした。

 カッと頬が熱くなり、全力で彼の肩をドンと押した。

 自然と突き飛ばした形になり、秋月くんはそのまま後ろ手をつく。

 彼は両目を見開き、悲しそうな顔であたしを見ていた。知っていて、見て見ぬ振りをした。

「あ、あたし!」

 ぎこちなく笑みを作り、サッと立ち上がる。

「も、もう寝るね? おやすみっ」

 テラスに転がった缶ビールの事も忘れ、そそくさとその場を立ち去った。

 一瞬、秋月くんにまた手を掴まれるのではないかと思ったが、そうはならなかった。

 きっと彼は真剣にあたしと向き合い、気持ちを伝えてきたのだと思う。

 十代の男の子の心を、あたしは深く傷つけた。

 二階に上がり、後ろ手に戸を閉めた時、あたしは大粒の涙を零していた。

 視界が歪み、堪えきれずに、その場にしゃがみ込んだ。

 寝ている美波を起こさないよう、あたしは声を殺して泣いた。

 苦しかった。悲しかった。自分が大嫌いだった。

 狡くて嘘つきな自分が、嫌で仕方なかった。

 本当はあたしだって、秋月くんに恋していた。そんなの、もうとっくに気付いていた。

 だから、彼の手を握るバーの常連客に嫉妬もしたし、今日のデートにも正直、舞い上がった。

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