ボーダーライン。Neo【上】
 本当は、嬉しかった。秋月くんにキスされて。そのまま抱きしめて欲しかった。

 今すぐ階下に降りて、彼に気持ちを伝えればきっと涙は止まるはずだ。

 分かっていて、あたしはそうしなかった。

 そう出来ない狡さを自覚していた。

 生徒である以上、あたしは彼に恋する事が出来ない。あたしの不埒な感情が世間にバレれば、あたしは教師をクビになる。

 それだけは避けたかった。大学時代、一生懸命努力し、国家試験に臨んだ。憧れの英語教師になって、この歳で担任を持てた自分を誇らしくもあった。

 あたしはあたしの保身の為に、一個人に抱いた恋愛感情を殺そうと決めた。

 誰から見ても王子様で、魅力的な秋月くんを、これ以上好きになってはいけない。そう分かっていたのに、どうして……

 考えれば考えるほど涙が溢れ、あたしはそのまま眠れぬ夜を過ごした。

 ***

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