ボーダーライン。Neo【上】
 スタッフの車で事務所へ戻り、地下駐車場に停めた自分の車へ乗り込む。

 画面をタッチし、今からそっちに向かう、と内田にメールを送った。

 現地付近の駐車場に車を停める。

 降りる際、ニットのキャスケット帽を目深に被り、伊達眼鏡とマスクを着けた。花束を忘れずに持ち、居酒屋まで徒歩で行く。

 内田に言われた通り、居酒屋の店員に彼らの名を告げると、奥の個室へ案内された。

 その時言うまでもなく、無遠慮に風貌を観察されるが、僕は終始俯き、気づかない振りを決め込んだ。

 女性店員は初めこそ不振な目を向けていたが、やがて首を傾げ去って行った。

 個室の前で靴を脱ぎ、障子を開けようと手を伸ばす。が、その指先から僅かな緊張が走り抜け、途端に動きが止まった。

 わいわいと騒がしい薄い戸の向こう側。

 彼女はそこへ来ているのだろうか。

 そう考えると、自然と眉間にシワが寄る。

 あの日。最後に見た幸子の顔が、脳裏に浮かんで、僕は瞑目した。

 ーー「あたしの事は。もう、忘れてください」

 感情の読み取れない真顔で、幸子はそう言っていた。

 突き放す彼女の目は、今でもはっきりと覚えている。

 僕は眉間を歪めたまま、瞼を持ち上げた。

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