ボーダーライン。Neo【上】
「改めて、結婚おめでとう」

 奈々と内田を見やり、祝いの賛辞を述べる。

「これ、一応の気持ちだから」

 それまで手にしていた花束を渡すと、奈々が瞳を潤ませ、初めて、と言った。

「初めて檜にお花貰ったよーっ、感激~っ」

「いやいやいや、それ、奈々限定じゃないし。きみたち二人に、だから」

 激しく誤解する彼女に説明すると、奈々は茶目っ気たっぷりにおどけ、内田がありがとう、と言った。ふたりは照れ臭そうに顔を見合わせ、クスっと笑う。

 そして、檜は何飲む? と内田からドリンクメニューを渡された。

「ああ、俺はジンジャエール」

 一瞥をくれただけで言うと、彼はキョトンとし、「飲まないのか?」と訊いてきた。

「今日車だし、あんまり羽目も外せないから」

 そう言って笑い、緊張が遠のいた所で、ようやく周囲を確認するが。やはりそこに、彼女の姿は無かった。

 胸の内で、何かがぽっかり抜け落ちる気配がするが、僕は気付かないふりで水を飲んだ。

「つーか。まさか檜がこんな大物アーティストになるとはなぁ~」

 酒のつまみに誰からともなく、そんな話題が上がる。

「ほんとほんと。昔はちょっと目立つぐらいだったのに」

「けどあん時からカリスマ性は有ったよな?」

「あー、体育館での演説とか?」

 そう発するや否や、言った当人が、あ、と苦い顔で口を噤み、頬を強ばらせる。

 僕は真顔でグラスを傾けていた。
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