ボーダーライン。Neo【上】
 やがて少し離れて座る女子から「はい、秋月くん!」と手が挙がる。

「昨日のクリスマスライブ、私行ったよ??」

「え、ほんと?」

「うん。妹がチケット取ってくれてね? 友達と三人で」

 えー、いいないいなぁ~、と奈々や数人の女子がむくれて言うので、つい笑ってしまう。

「そうなんだ、サンキュー」

「で。お願いなんだけど?」

 愛嬌じみて首を傾げながら、その女子が取り出したのは一枚のサイン色紙。

「サイン頂戴っ!? お願いっ!」

 ひとりが言い出すと周りも同調し、俺も私もと急に詰め寄られた。

「おいおい。お前ら、いい加減にしろよ。檜はさっきまで仕事してて、今はプライベートなんだぞ?」

 顔をしかめて言うのは内田だ。僕は彼らしい発言に、少しだけ嬉しくなる。

 サインをねだる彼らは、だってぇ、と残念そうに肩をすくめた。

「いいよ、内田。サインぐらい飲みながらでも出来るから」

 ありがとな、と続け、ひとりひとり受け取ると、じゃあ奈々も欲しい、と用意していたCDを渡された。

「奈々。お前空気読めよ?」

 内田が大袈裟にため息をつくので、僕はつい素の顔で笑ってしまう。
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