ボーダーライン。Neo【上】
/過去
◇ 日記4
1
「別れよう、あたし達」
あたしがこう言う事を幾らか予期していたためか、彼は然程驚きはしなかった。
前に会ったのはいつだったか。確か夏休みに入って直ぐ、今日と同じように外でご飯を食べたはずだ。
二人でよく来た焼肉屋さん。夏休みの最中、店内はいつも以上に賑わっている。
あたしの真向かいに座る彼氏、圭介はトングを持ったまま真顔で見つめ返した。
網焼きのお肉がいい具合に油を浮かせている。
あたしに向けた視線を再度下ろし、圭介がお肉をひっくり返した。音と香りが充満する。
お肉が焼けるまでの間、圭介は何も喋らなかった。彼なりに言葉を探していたのかもしれない。
「別れるの? 本当に?」
冷静な口調で圭介が訊ねた。
程よく焼けたカルビと塩タンをあたしの皿に乗せてくれる。
あたしは、ありがとう、と言いながら、彼を見つめ真顔で顎を引いた。
「ごめんね。今まで知っていて知らない振りをしていたの。アリサさんのこと」
圭介は目を伏せ、自分の皿にもお肉を入れた。そうだよな、と言いながら眉が下がる。
「アリサは源氏名だからさ。本当は奈美って言うんだ」
「うん」
それも知っている、と言葉を飲み込み、あたしは彼を見ていた。