ボーダーライン。Neo【上】
 意地悪な言い方だな、と思った。

 別に秋月くんの話なんてする必要もないのに、された事をやり返すみたいな、多少の怒りがあった。

 あたしって思っていた以上に性格が悪いな、と自覚する。

 あたしは笑いたくもないのに、笑みを浮かべた。

 そして財布から勘定の半額を出した。

 鞄の内ポケットを探り、一時期からずっと指に嵌められずにいた指輪も摘み上げ、机上に置いたお金に重ねた。

 圭介はそれを見て、眉根を寄せた。

「さようなら」

 言いながら席を立つ。

 恋人との別れに綺麗なものなんてない。

 どっちつかずの圭介は、きっと優柔不断で優しすぎるからいけないんだ。

 だけどあたしは、あの優しい所が好きだった。

 馴染みの焼肉屋さんに行ったら、いつも率先してお肉を焼いてくれる所も、自分よりもあたしに沢山食べさせようとしてくれる所も。落ち込んでいたら、わざと面白い話題を振って笑わせてくれる所も。

 好きだったけど、もう信じる事は出来ない。

 だからもう終わりなんだ。

 焼肉屋さんを背に、あたしは込み上げた涙をそっと手で拭った。




 翌日。長く充実したお盆休みを終え、あたしは出勤日を迎えた。

 職員室にはまばらにしか人がいなかった。代わりに、夏休み中の部活動に励む生徒の声が窓越しに届いた。
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