ボーダーライン。Neo【上】
 左手で頬杖をつき、ボンヤリと携帯を見つめたまま溜め息をつく。

 二学期の授業に使うプリントをコピーしてクラス毎にまとめてと、やる事は山積みなのだが、朝からぼうっとして頭が働かない。

 その原因が、一昨日(おととい)にある事をあたしは理解していた。

 二日前、あたしはロンドンから帰国した。

 観光最終日の夜、秋月くんにキスをされてから、どんな態度を取るのが正解か分からず、あたしは彼を避け続けた。

 飛行機が成田空港へ到着し、諸々の手続きを済ませればそのまま現地解散という流れだったのだが。予想外にも、解散する寸前で秋月くんから告白を受けた。

「俺さ。先生が好きなんだよ」

 声のトーンから分かった。彼が真剣だという事を。

 なのに、あたしは秋月くんに背を向けたまま、振り返る事も出来なかった。

「俺にとって、先生は特別なんだ。多分、初めて会った時から気になってた。
 歳も全然違うし、教師だって分かってるけど。先生の存在がずっと頭から離れてくんなくて。これが恋かって気付くのに、大分時間がかかった」

 彼の言葉に情熱を感じ、幾らか胸を打たれた。

 だからこそ、彼との年の差や教師という立場に一層悔しさが増した。
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