ボーダーライン。Neo【上】
 やがて、秋月くんは返事を求めるのをやめてあたしに言った。

「じゃあさ。俺の事、ちょっとでいいから考えてみてよ? 返事、待つからさ。また今度聞かせて?」

 これ以上の返事はもう出来ないと知りながら、あたしは曖昧に頷いた。




「なにが。‘癒やし’」

 ーー系マスコットキャラ……

 秋月くんの存在を重く考えないように、とフランクにし過ぎた事に今更ながら反省していた。

 癒し系マスコットキャラ、だなんて。彼は生身の男の子だ。思春期の男子高校生。二次元でも何でもない。実際に存在しているのに、あたしは軽く見過ぎていた。

 秋月くんにどっぷりハマらないように、と。ある種の暗示をかけていたようにも思う。

 今しがた彼から届いたメールを見つめ、あたしは自分自身をたしなめた。

【先生、おはよー(^^)つか、もう昼だけど(笑)今日から仕事だっけ? 頑張れよー】

 ーー秋月くん。

 彼にどう接するのが、あたしの中では正解なんだろう。未だにその答えが見つからず延々とループしている。

 溜め息だけで、仕事の手を止めていると、手前に置いた固定電話が鳴った。

 メールの返事を後回しにして電話に出る。業務的な口調で話す男性の声が耳に届いた。

 用件を聞くなり、あたしは慌てて職員室を飛び出した。
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