ボーダーライン。Neo【上】
 今時の若い子にしては珍しく親切な子だな、と。横断歩道を渡りながら思っていた。

 年配でも妊婦でも幼児でも無いあたしに対して、これ程まで世話を焼いてくれるのだから、名前と連絡先ぐらいは聞いておくのが大人のマナーだろう、とも考える。

「……ご親切に、ありがとうございました」

「いえいえ」

 無事駐車場へと辿り着き、運転席に乗り込んだ。軽く会釈をし、彼を見上げて微笑みながら、後日御礼をするため連絡先を聞いておこうと言葉選びを思案する。

 先ずは自分の名前を名乗るべきだろうか、と考え、桜庭(さくらば) 幸子(さちこ)と申します、と喉元まで出かかった時。

 またしても飛び出す彼の突拍子もない言葉に、あたしの表情は固まった。

「あー……。あの、良かったら名前、教えて貰えないスか?」

「……はい?」

 ーーてか今まさに名乗ろうとしたところだけど。何で逆に訊かれてるの、あたし。

「あと、番号も教えて貰えたら嬉しいんですけど」

 暫時、無言になった。

 これはもしかして、アレだろうかと。頭にナのつくアレじゃないかと、急に思いついた。

 あたしが最も苦手で不得手とするあの行為かもしれない。

 けど、まさか。こんな美少年があたしなんか相手にする訳ない。自意識過剰にもほどがあるよ、と。自身を揶揄(やゆ)しながらも、あたしは訊ねた。
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