ボーダーライン。Neo【上】
 あたしはコートの片方だけを脱ぎ、おずおずと右腕を突っ込んだ。自販機の下に手を入れるなんて、もはや抵抗しか無かったが、無事に指輪を持ち帰るより他は無い。

 手に、よく分からない、ゴミか何かが当たり一度手を引き抜いた。携帯のライトで再度下を照らして確認する。

 どうしよう、と思った。

 ーーちゃんと指輪をはめて帰らないと、慎ちゃんに怒られる。

 万が一、取れなかったとしても、どういう扱いをしたらそんな物を落とすんだ、と絶対に問い詰められる。

 あたしはもう一度、上体を伏せた。手が汚れるのを我慢して、勘だけで地を探る。

 時間にして、何分ぐらいそこに座り込んでいたのかは分からないが、体は更に冷えていた。手足の冷えは元より、コートを片方脱いでいたので右半身が寒くてたまらない。

 ーーどうしよう、取れない。

 また手を抜いて上体を起こした。

 こんな地面に正座をするなんて、きっとあたしぐらいだろうな。

 あたしは自販機の明かりを見つめ、絶望的な気持ちで溜め息をついた。下へ流れたサイドの髪を耳にかけ、途方にくれるしか無かった。

 きっと、バチが当たったんだ。

 あたしは俯き、唇を噛んだ。鼻の奥がツンとなり、視界が滲んだ。
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