ボーダーライン。Neo【上】
 出会った頃と同じように、檜もジッとあたしを見下ろしていたが、やがてその視線は地に落ちた。

「あぁ、えっと。桜庭先生、何してんの?」

「え」

 ーー何って。

 あたしは、震える手を握りしめ、眉を下げた。

「この下にお金でも落としたの?」

 冷静な口調で言いながら、檜があたしの前にしゃがむ。目線が合った事に、ドキッとした。

「ちがっ」

「だってさっき、這いつくばって覗き込んでたじゃん?」

 お金じゃない、と否定しようとしたが、さっきまでの失態を見られていたのかと知り、たちまち顔が熱くなった。

 あたしは俯きがちに、あれは、その、とか細い声で呟いた。

「……わ、を」

「え?」

「指輪を、そこに……落として」

 ようやくそこまで言え、自販機の下を指で差す。

 檜は無言で自販機を見つめ、歎息した。

 そして何を思ったのか、あたしと同様に膝を付き、ちょうど犬が伏せる様な格好で下を覗き込んだ。その姿を見て、ギョッとなる。

「い、いいよ!! 秋月くん! 服が汚れちゃうよ!?」

 あたしは慌てて立ち上がり、同様に檜も立ち上がらせようと腕を引いた。

「先生、うるさい。ちょっと黙って?」

 そう言って檜は、ポケットに入れた携帯で明かりを照らした。
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