ボーダーライン。Neo【上】
 突如として変装しだす檜に、あたしは当然ながらキョトンとなる。

「ちょっとコンビニ行ってくる」

「え??」

 車をロックし、彼は表通りを指差した。

「確かあっちに有ったから。待ってて?」

 そう言って走り去る彼に、無言で頷いた。

 ーー待ってて、なんて。あの頃と同じ。

「……変わってない」

 あたしは目を伏せ、呟いた。

 スクッと立ち上がり、鼻をすすった。

 ーーでも、コンビニへなんて。何しに行くんだろう?

 あたしはそろりと歩き出し、檜の車を好奇心いっぱいに覗き見た。

 座席シートとハンドルカバーをシンプルなデザインに統一し、小物入れには香水とサングラスが置いてある。

 その空間が檜らしくてお洒落だな、と思った。

 何となく、助手席をジッと観察してみる。女の人が常に乗っているような気配は感じられない。

 あたしは元の場所に戻り、自販機の前で立ち尽くしていた。

 ーーこのまま、戻って来なかったらどうしよう?

 そこに彼の車が停まったままだから、それは無いだろうが、何となく心細くなった。

 あたしは彼が去った方向を見つめる。

 ーーって言うか。檜、あたしと会っても意外と普通だったな。別に不機嫌な感じとか全然無かったし。

 変わらない態度で接してくれて良かった……

 心配したり、安堵したり、気持ちが忙しなく移り変わる。

 程なくして、足音が響いた。
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