ボーダーライン。Neo【上】
「ごめん、遅くなった」

 コンビニの袋を揺らしながら戻った姿を見て、あたしは胸を撫で下ろした。

 ううん、とかぶりを振る。

 檜はガサガサと袋の中をあさり、中から出した缶コーヒーを、あたしに手渡した。

「え? あ、ありがとう」

 温かい飲み物なら目の前の自販機に有るのだが、指輪を拾う事に必死になっていて、買うのを忘れていた。そもそもの原因は、缶コーヒーをカイロ代わりにしようとした事なのに。

 渡された缶を、ぎゅっと両手で握りしめた。

 ーーあったかーい……

 さっきまで張り詰めていた気持ちが、ほぐれるようだった。

 ーーまさかあたしが寒そうにしていたから、買ってくれたのかな?

 あたしは缶を見つめ、それから檜に目を向けた。胸の奥が僅かに痛くなる。

 いつの間にか変装を解き、彼は素の顔で袋を漁りだした。

「コンビニって割と何でも置いてるよな?」

 そう言って檜が取り出したのは、三十センチ定規とガムテープ。

 あたしは目を瞬き、キョトンとした。

「まぁ見てな?」

 言いながら、にやりと笑う顔が魅力的でドキッとなる。

 檜はテープの封を開け、粘着質で無い側を丁寧に定規へと巻き付けた。

 ーーなるほど、頭いい。

「じゃん! 俺流トリモチ」

「アハハっ」

 あたしは無意識に頬を緩め、破顔した。

 ーー不思議だな。檜がそこにいるだけで、もの凄く安心するし、癒される。

 同時に、そういえばそうだったな、と思い出した。檜が放つ独特の空気感は、周りを和ませるのだ。
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