ボーダーライン。Neo【上】
「先生、後ろからでいいからライト照らしてね?」

 彼は自作のトリモチを手に、その場へしゃがみ込んだ。

「あ、はいっ」

 指された携帯を握り締め、あたしも同様に膝を付く。

 缶コーヒーを地面へ置き、彼の脇から見えやすい様に明かりを向けた。

「お、あった」

 檜は定規ごと手を入れ、目的物を押さえるよう腕を反転させた。

 その姿を見て、そうか、リーチが全然足りなかったんだ、と気付く。

「取れる?」

「……うん、あ。待って」

 一生懸命、頑張ってくれている彼には申し訳ないが、良い香りだな、とふと思った。

 甘いムスクを含んだ香りに、うっとりしてしまう。

 今の檜の香りだと知り、気恥ずかしくなった。

「捕獲成功」

 ーーえ。もう?

 あたしは立ち上がる彼を見て、目を丸くした。同様に立ち、携帯をポケットに仕舞う。

 檜はテープにくっ付いたダイヤのリングを指で摘むと、はい、と言って差し出した。

「あ、ありがとう」

 ーーなんてスマートなんだろう。

 そのまま手だけを突っ込んでいたあたしとは、大違いだ。

 あたしは片方の手で指輪を握り締め、先程地面に置いた缶コーヒーを拾った。

 腕や膝の(ほこり)を払い、檜があたしを一瞥した。
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