ボーダーライン。Neo【上】
「ちゃんと()めとかないとまた落とすよ?」

「あ、うん」

 檜の手前、躊躇いながらも、それを左手の薬指に嵌める。

 彼は今し方大活躍した定規のガムテープを剥がし、コンビニの袋にそれらを仕舞ってから訊ねた。

「とりあえず訊いていい? どうやったらそんなの落とすの?」

 え、とあたしは頬を強ばらせた。

「あ、あんまり訊かないで欲しいんだけど」

「ほら、成功報酬」

 捕ったからには理由を述べよ、と彼は手の平を差し出した。

 その仕草に、仕方無く口を割る。

「わ、笑わないで欲しいんだけど」

「うん」

 ーーて言うか、もう笑ってるし。

 構わずに、続けて言った。

「クラス会で飲んでる時、指輪を。無くしたらいけないと思って、鞄のポケットに仕舞ったの」

「それで?」

「それで……。そこに。一緒に小銭も入ってて。寒いからってここであったかい物を買おうとした時、ポケットで掴んだのが偶然指輪で」

「は?」

「だからっ! お金と間違えて入れようとしたの、そこにっ」

 若干ムキになりながら、自販機の右端にある、硬貨の入口を指差した。

「で、落としたと?」

 そうよ、とあたしはむくれてそっぽを向く。

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