ボーダーライン。Neo【上】
 手で助手席を指し、乗るように促された。あたしはやんわりと笑い、車に乗り込んだ。

 運転席に檜が乗り込むと、車内が良い香りで満たされた。

 暗い夜道の中。ライトを照らし、走り出す。

「まさかここで乗せるとは思わなかった」

「え?」

「いや。こっちの話」

 檜はこちらに視線を送り、意味深に笑う。あたしは首を傾げた。

 沈黙しているのも嫌なので、何でも良いから話そうと思った。

「あ、ねぇ。そう言えば、クラス会には参加したんだよね? お酒、飲まなかったんだ?」

「ああ、うん。今日仕事入ってたから、車だったし。飲みが目的で参加した訳でもないから」

 ーー二人を祝福するため、だよね。

 あたしは彼を見て、笑みを浮かべる。運転しにくいからか、彼はコートを脱いでいた。細身のブルーグレーのスーツが目に留まる。

「そのスーツ、素敵だね。秋月くんに似合ってる」

 檜はあたしを一瞥し、小さく笑った。

「そ? ありがとう」

「今日。スーツとか着ていく仕事だったんだ?」

「うん。今度やる映画の試写会があって。それの後、パーティーだったから」

「へぇ~。なんか凄いね」

 あたしは上機嫌で前を向いた。五年も離れていた檜と、普通に話せる事が嬉しかった。

 少しの間、沈黙していると、彼が躊躇いがちに言った。
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